【LOVE怖シリーズ】視縛 ~見えない傷~

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一人暮らしの私にもとうとう春が来た。

大学時代からつき合っていた彼との結婚が決まったんです。

週末。

今日は彼と新居の下見。
あらかじめ不動産屋で何軒か目星をつけていた物件を順番に見て回ります。
チェックポイントは、日当たり、水回り、導線・・・

コンパクトな割に収納がたくさんある機能的なこの部屋に私は一目ぼれしてしまいました。
流行りのオープンキッチンに間接照明、洗面台にはメイク用の拡大鏡とちょっとしたところに気遣いがあるのもオシャレ好きの私には嬉しい。

「ここにしようよ」

彼は何のためらいもなく二つ返事で承諾してくれました。
何もかもが思い通りに決まっていく。
(幸せだな~)

敷金の半額を手付金として支払い、賃貸手続きを済ませたあと、そのまま彼の車で実家に立ち寄ることにしました。
両親に結婚後の新居が決まった報告と、いまだに実家に送られてくる郵便物を取りに行くためです。

一人暮らしといっても箱入りの私は、親元を離れて暮らす練習程度のものだったから、住所変更をしていない会員カードなんかもあってお知らせが届いたりします。

自分のアパートにほど近い実家には、いつでも行けるから郵便物が少しぐらい溜まっても問題ないんだけど、せっかくのこんな記念すべき日には彼と一緒にいたい気分だったから。

両親に報告を済ませて彼と二人で2階の自分の部屋に。

この部屋には いっぱい思い出が詰まっている。

嬉しいこと、悲しいこと、悔しいこと、両親に叱られてすねたこと、姉妹げんか・・・
そういえば、子供のころ近所ではちょっとした美人姉妹で評判になって
「どっちが先に結婚するんだろうね」
なんてよく言われてたっけ。

私は高校生になって実らない大きな片思いを経験してからすっかり奥手になったてしまったけれど、それでも めでたくも24歳でゴールインかぁ。幸せの絶頂期だな(笑)

この部屋はそんな私を子供のころからずっと見守っていてくれた。
(いつ来ても懐かしいな~)

「どうしたの」

「ううん。この部屋は、やっぱ落ち着くなぁて思って」

「ユキはここで大人になったんだね。どれくらい大きくなったのか見ちゃおっかな」

耳元で囁いて彼はクッションに座っている私の内腿を目がけてスカートの中に手を伸ばしてきた。

「こ~ら、ダメだって。下にお父さん、お母さん居るんだから」

「ちょっとだけだから。ユキの匂いでいっぱいのこの部屋にいたら、なんだかムラムラしてきたよ」

「でも。。。」

「服、着たままでいいからさ、ね」

「イヤよっ、じゃあ、私のアパートの部屋に行こうよお、すぐ近くだから」

「そんなに焦らすなよ。ココがいい。我慢できないんだ」

「ダメだめ、ダメだってば〜」

それから彼は、私の抵抗をちょっとだけ楽しんでから時間に追われるように私の下着だけを器用に腿の半分のところまで力任せに下ろしました。
そして両脚を持ち上げて私のからだをL字型に折り曲げると、前戯もそこそこにそのまま挿入。

グチュ ぐにゅぐにゅ

(入ってきた)

いやらしい音。

(硬くて熱い。すっごくいい)

私は声を上げないように必死でした。

 

凸凹

「よかったよ。いつもと違う場所で興奮した。
ユキ、愛してる。」

私は彼のやさしい言葉に包まれて充足感で満たされました。

思えば初めてこの部屋に入れた男の人も、処女を捧げたのも彼だった。
(神様、ありがとう。私、ほんとうに幸せです)

 

翌日。

「あれ、いつの間にできたんだろう?この傷

右手首に一筋の血がにじんでいる。

やだ、きっと彼が昨日、夢中になってた時に無意識のうちに時計で引っかいちゃったのね。可愛いんだから。

私は気にもせずいつも通りに出勤して、仕事をして一日を終えました。

それから2ヶ月。

彼との関係は結婚のカウントダウンに向けて良好だった。デートもエッチも人並みに楽しめてる、と思う。

この頃から感じ始めた違和感を除いては。

不思議なんです。

偶然かもしれませんが彼と愛し合った次の日には、必ず、からだのどこかにつけた覚えのない傷ができています。

それに、何をしてもどこにいても誰かに見られているような視線を感じる。
駅でも、給湯室でも、トイレでも、メイク直しの時もPCや携帯の画面を見ている時さえも。

帰宅途中では、信号待ちの車のサイドミラーやコンビニのショーウインドーに何かが映ったような気がして、じっと目を見張っても、振り返ってもそこには何もない。

・・・。

背後の気配や視線が気になって できるだけ人の多いところや明るいところ、姿が映る鏡張りのビルの近くなんかを通って警戒を高めているんですが、不安はぬぐえません。

背中に冷や汗が伝い身動きできなくなるような、ただじっと見られてるだけの視線

私の思い過ごしならいいんだけど。

もしかして

私、監視されてる?

一瞬イヤな予感がよぎる。

冷静に思えば、この状況で考えられるのはただ一つ。

」だ。

結婚を決めたことで、興信所でも使って私を素行調査してるのだろうか?
エッチのたびにからだに傷をつけるのは私を浮気させないための独占欲?!

だとすれば彼は相当な束縛魔ということになる。

一度疑いを持つと何もかもがぎこちなくなる。
顔を合わせるたびに小さな喧嘩も増えた。抱かれても愛しさを感じられない。
苦痛と共にいつの間につけられたのか原因不明の傷が手足に増えるだけ。

おかしくなりそう。

もう限界。

私は自分を抑えきれなくなって高ぶった気持ちを爆発させた。

「もうやめて、私のことそんなに信じられない?」

「何を言い出すんだ」

「私を監視するのは楽しかった?
からだに傷をつけるのは快感だったんでしょ」

「そんなことするわけないだろう、どうしたんだ」

「隠さないでよ。あなたが、そんなに束縛する人だったなんて」

「俺じゃないって言ってるだろう」

「もう信じらんないよーー。私、浮気なんかしないからーー」

思わず泣き崩れてしまった。

「落ち着けよ。最初から話してくれないか」

「もう限界なの・・・。しばらく距離をおきましょう」

・・・。

「もういい。終わりだ、別れよう。」

彼は、一言の弁解もせずアパートの合鍵をおいて出て行ってしまった。

涙が次から次からこぼれ落ちて止まらない。

彼の話もろくに聞かず、一方的に攻め立ててしまったことを私は悔やんだ。
本当のことを確かめたかっただけなのに。

その夜、私は涙が枯れ果てるまで泣いて一睡もできなかった。

☽☆☼

もう8時か。会社行かなきゃ。
食欲はない。顔を洗ってメイクして、身なりを整えて全身を玄関の姿見に映す。
うん、これなら大丈夫。泣き顔はごまかせるだろう。

通勤中、相変わらずの視線を感じながらも私は気にしなかった。
原因に察しがついているのだから。

まだ人もまばらなオフィスに到着。

カバンを下ろしてデスクに着くと先に出社していたトモ子にあいさつ。

「おはよう」

「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」

振り返りざまに静かなオフィスに悲鳴が響き渡る。

「ユ、ユキなの?

どうしたの、その顔!?

「聞きたいのはこっちよ。何か顔についてるの?」

「 嫌っ、近寄らないで 。いいから 鏡 見てきなさいよ。 」

どういうこと??
とりあえず化粧室に向かった。

3つ並んだ洗面台の大きな鏡に顔を近づけてみる。
別におかしな点は見当たらない。

「トモ子ったら寝ぼけてんのかしら」

せっかく鏡の前に来たので私が軽く化粧直しをしていると、違う課の女の子たちがおしゃべりしながら入って来た。

かと思うと、

私を見るなり悲鳴を上げて泣きながら後ずさる。

何がどうなっているのだろう。

どうしました!!

警備員が駆け込んできた。
大の男がいきなり尻もちをついた。

「ヒヤあーー!! 顔、顔、顔」

と指さす。

(だから何なのよお)

隣の洗面台の鏡、自分のコンパクトを開いてあらためて見直してみる。

いつもと一緒の私が映ってるだけだ。

女子トイレの入り口には悲鳴を聞きつけて、もう、人だかりができている。

会社中がザワザワし始めた。

私は、トイレを飛び出すと階段をダッシュして他の階の鏡に向かう。

エレベータ前の鏡も、窓に映しても、ここも、ココも、ここも 、、、

どれを見ても自分には異変がない。

追いかけてきた同僚たちの顔は、みな恐怖にひきつっている。
私はいたたまれなくなって会社から逃げ出した。

何がなんだかパニック状態だ。
とりあえず顔を隠そう。
ハンカチで顔を押さえて通りかかったタクシーを止めて乗り込むとアパートに向かった。

ガチャガチャガチャ。

焦りで鍵穴に上手くカギが入らない。やっと開いた。
後ろ手に勢いよくドアを閉めて、部屋じゅうの鏡に自分の顔を映して回る。

玄関の姿見、洗面所、風呂、寝室、鏡台・・・

やっぱりそこには何も変わらない自分がそこにいるだけ。

「もう、おかしいとこなんて ないじゃない。どうなっちゃてるの!?(怒)」

いつも下駄箱の上に置いてあるキキララのキーホルダーがついたカギを無造作につかむと、私は実家に向かって全速力で走り出した。

両親は共働きで昼間は誰もいない。

パンプスを はしたなく蹴り脱ぐと一目散に自分の部屋へ階段を駆け上った。
カーテンを閉め切った。
走って上がった息をおさえながら
恐る恐る小さい頃から使い慣れている鏡台に自分を映してみる。

はっはっ、

汗だくのいつもの私。

な~んだ。
ってことはこれはきっと夢?

(良かったぁ)

気が抜けて腰が抜けたようにヘナヘナと床に座り込んでしまった。

それもつかの間

・・・違うよ・・・

突然どこからか声がする。
ずいぶんと若い女の声だ。呻きを伴った小さな子供のようにも聞こえる

「えっ!?」

ビックリして振り向くが誰もいない。

・・・違うよ・・・

また聞こえる。
声というより頭の中に直接呼びかけるような気持ち悪さがある。
部屋中を眺めるが声がでるようなものは何もない。
気味が悪い。

「 誰? 何なのよ、もう」

(誰か助けて!)
すがる思いで消せなかったケイタイの彼の名前を押す。

その時、突然、
部屋中のライトが点滅を始めた。

「きゃあああ~っ!」

電話は圏外だ。繋がらない。

「助けて~っ」

追い打ちをかけるかのように不気味な声が再び。

・・・見たい?
   見せてあげようか・・・

一瞬、すべての電気が消え、鏡 が真っ黒に変わったかと思うと

そこには

赤黒いドロドロとした血を両目から流した不気味な顔が。。。

「うぉえっ」
嘔吐してしまった。

絶句。沈黙。声が出ない。

気力を振り絞って鏡に向かって両手を動かしてみる。
震える手でゆっくりと髪を触ってみる。
頬をなぞる。

確かに私だ。

きっとみんなが見ていた顔。

涙が止まらない。違う血だ。

「いやーーー!どうしてー!私が何したっていうのよお」

今度は鏡に白い靄(もや)が映った。

g・・・誰かいる。

一瞬で私の顔から血の気が引く。
からだがフリーズして動かない。
背中を冷や汗が何筋も伝う。

「ミ、ミキちゃん」

双子の妹が鏡に浮かんだ。
高校生の時、同じ男子を好きになって失恋したのは私。「美人姉妹の恋レース」をうわさする近所の世間体を気にしたのもあって私は嫉妬した。
そして2人の子供部屋として使っていたこの部屋で妹を責めた。
それがショックで 妹は 2日後に自ら命を絶った。

・・・ずっと見てたよ、鏡の中から。
お姉ちゃんが自分だと思って見てたのは双子の私の顔。
お姉ちゃんのからだの傷は私の痛み・・・

ごめんなさい、ミキ。ごめん。

・・・彼に会えなくなって寂しい?
私もよ。お姉ちゃんみたいに彼に抱いて欲しかったな、この部屋で。

お姉ちゃんの結婚なんて

絶対許さない・・・

ミキの声は凄味が加わって恨みが積もった うめき声に変化した。

「ううぅ…
本当にごめんんさい。許して」

・・・絶対に・・・

・・・絶対に・・・

・・・絶対に・・・

「もうやめて~、お願い、ミキ~」

私は、頭を抱えて泣き崩れた。
血の涙を流しながら。

・・・あの時、言ったよね。
お姉ちゃんこの部屋で

「おんなじ顔のあんたなんか 死んじゃえばいいのに」・・・

鏡の中でミキの唇だけが動いた。

お・ま・え・も・な

うぐぐぅ…
私は薄らぐ意識の中で真っ白になった。

 

●  ●  ●

それから何年か後。
ユキは整形で顔を変え、N県に移住して職も変えたそうだ。
例の件以来、ワンナイトラブはあっても、彼氏はずっと作っていない。。。

 

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